耕木杜…木を耕し杜(もり)に帰る  




昨年、およそ300年前に作られた京都・大徳寺玉林院の茶室・蓑庵(さあん)を
アメリカ・ハーバード大学で展示するため、再現制作する機会を頂きました。
この茶室・簑庵は、自分的には映りは「草」(そう)のように見えるけれども、
精神面では「真」よりはるかに高いものでした。


限られた時間の中でしたが、簡単な展開図と数枚の写真から構造を導き出し、
ひとつひとつ材料を準備して再現していく過程の中で、
00年も前にすでに普遍的な建築があった事、そういう時代があった事に気がつかされました。


自分は十五歳で大工になって以来ずっと、
時代を超える建築とはなにかという思いを持ち続けて来ました。
そしてそれはどこか遠くにあると思い込んでいた。
ところが、今、自分の手で再現しようとしている古典の中にあったのです。

それから年が明け、突然本物の蓑庵を訪れる機会がやって来ました。
これは自分にとって偶然なのか必然なのか 信じられない出来事でした。 


本物の簑庵は、建物も庭も、自然に見せようと考え抜かれた職人の技は、
300年の間に一切の作為も消えて、すべてに調和がとれて、野趣に富む、
ただただ美しい佇まいを見せていました。
それはその場所とともに300年という時間の経過が生み出したのだと感じました。

この気づきは自分の目指す時代を超えられる新しい建築の確かな手がかりとなりました。

耕木杜代表 阿保昭則