耕木杜…木を耕し杜(もり)に帰る  
 
「窓って難しい…」
大工の私がデザインについて考えるようになったきっかけは、
20年ほど前、那須で出会った菊池省三さんが漏らした一言でした。
当時30代前半、それなりに大工として経験を積んできて、
窓は決まった形に納めればいいものと考えていた私にとって、
日本にカフェ文化を持ち込んだshozo caféの創立者のその言葉は大きな衝撃でした。
「窓」これが私のデザインの原点です。

ニッポンデザイン?



日本人の一般的な暮らしの中にデザインの意識が定着して来たのはここ30年~40年の事だと思います。
以前の畳や板の間の上にすわる暮らしに、イスやダイニングテーブル加わり、
このころから「リビングデザイン」という言葉が使われる様になりました。
そうして、ここ数十年の間に床にからイスにすわる暮らしに変化することで、
最も大きく変わったのは目線の高さです。
目線の高さが変わると、部屋に入ってくる光の感じ方、天井や床との距離、
空間の感じ方が大きく変わるので、空間の構成の考え方も大きく変わりました。

ただ残念ながら日本には日本らしい風土や色彩、
人の気質や生活スタイルが日本人の感性の中しっかりと存在し、
それに添って発展していかなければならないのに、日本の建築デザインは歴史が浅く、
欧米の表面上の形だけををそのまま取り入れているばかりでちはぐなで、
まだまだ調和がとれていないと言わざるをえません。
日本には日本らしいデザインの形あり、これからの新しい建築の中にも映し出されていくべきと考えます。


デザインの本質



デザインを考える上でもっとも大切なことは、その空間の主人公となる人間が、
心地よいと感じることだと思います。これが全てのデザインの本質につながります。
そのためにはまず、何がどこに置かれているかはっきりわかるように整理をする事。
生活の小さな部分まで整理し解りやすくするという事はとても重要です。
これがデザインの入り口です。
そうして住み手の目的にマッチした寸法や構成を整え、一つの統一した意識でデザインしていくと、
心地よい空間が生まれてきます。

ここで作る側から、室内の構成や家具など色々な物をいれる時の
2つの大きなルールを書いておきたいと思います。
それは、

① 色、素材感の統一。
② 形や大きさなど互いの存在が邪魔をしないこと。

色については、温かさ、清潔感、何を求めるのか。
照明のあかりの種類や壁の色、木材の色なども大きく左右します。
素材感としては 自然から成り立っている素材同士はとても相性が良く、表現のバリエーションも豊かです。
形や大きさは素材感も含めかなり吟味します。
それぞれが主張しすぎない事が大切です。
残念ながら、現在の建築では、すでにあるものを組み合わせているようなパターン化した仕事を多く見ますが、
それはデザインではなくただのコーディネートだと思っています。

デザインとは形ではなく、使う人の感情や心理状態も含めて、空間を構成しバランスを考えてゆくことです。
そういった意味で、建築デザインはとても複合的で複雑です。
まずヒューマンスケール、太陽の光、空気の流れなど、大きく空間を認識することから始めます。
そしてそこに素材を選びながら、目的に応じてどういう形で、どのように作り、配置していくかを決めていきます。
建築デザインにおいては、住み手がいつでも安心して過ごせる居場所をつくることそのものが、
デザインするという事なのかもしれません。


いいデザインとは



「デザイン」というと、モダン建築と呼ばれているものに多く見られるように、
素材にこだわらず無機質でクールという印象がありますが、
作り側の一方的なこだわりの中にお客さんを押し込めてしまってはいけません。
デザインが優先しそれに生活を合わせるようなことになってはいけません。
また、工夫を凝らして作りすぎたものは、住み手にとっては空間の調和がとりづらく息苦しいものです。
デザインは本来、必要最低限のパーツから生まれるもので、心地よく暮らすために、
使い手の可能性や余白を残しておくことはとても大切です。

私が考える「いいデザイン」とは

・シンプルで長く使って飽きないプロポーション。
・単純なのに深みを感じる。
・長く使っていくうちに新しい発見がある。
・最小限で強度に耐えうるパーツで構成する。

また、健康で安全な暮らしのためにも、心と体にいい素材は欠かせません。
素材をどう生かし調和させてゆくか-

こうして沢山の事を考え形にしてきましたが、やはりデザインをする上での一番難しいところは、
それぞれに対する高い意識と高い能力を兼ね備えたうえで、構成、バランスを考える事。
このさじ加減です。

そしてその感覚は 日々様々な事に対し、
限界まで頭脳・能力を使い切って取り組み修錬して行く事で高めていく事が可能なのです。
そこから初めて自分の原動力となる生き方、スタイル、仕事への取り組み方や、
その人自身の精神や人格が確立され、
デザインに限らず時代を超えられるものが生み出される事につながっていくのだと思います。
そしてそれは人に対しても同じです。
生まれたものを良い環境の中でしっかり育てていく事が今の時代にとても大事だと思います。

次号は、「育てる」ことについて綴っていこうと思います。

阿保昭則