耕木杜…木を耕し杜(もり)に帰る  
  100年に一度と言われる不景気の中で起こった、1000年に一度の未曾有の大震災は、
私たちに経済優先で走り続けてきた社会の矛盾と行き詰まりを、様々な形ではっきりと知らせてくれました。
私は今こそ、利便さと引き換えに失ってきた本当の豊かさについてじっくり考えるチャンスだと思っています。
ものづくりの原点を見つめ直おそうというメッセージを込めて、今月のコラムをはじめます。

のこるものをつくる



ものづくりの根本の目的は、
「経済に精神を売らずに、しっかりものをつくる」ことです。
出来上がったものが時代を超えてのこるものなのかどうか、
素材と作るものへの妥協せずに関わるということがまず第一にあって、
経済はあとからついてくるというのが、本来のあり方であると思います。

けれども、一人の職人が人格を持って社会で生きていく上で、
生活環境や人間関係、時間などさまざまな関わりの中で、経済に負けてしまうことがあまりにも多い。
そういったものに振り回されることなく、自分の好きなことに、信念を曲げずに探求し続けることが大切です。
実は現代人にとって、これが一番困難なことかもしれません。

また、ものづくりを極めてゆくために、新しいデザインや様々な人との出会いを吸収していく柔軟性と、
伝統的な技術を守る頑固さをバランスよく保つことも重要です。
頑固になりすぎると排他的になって様々な可能性を狭めてしまうことになりますし、
柔軟に吸収しすぎると自分の指針を見失ってしまいます。
自分の精神にゆるぎない芯を通しつつ、なお且つ柔軟にものごとを吸収し、
自分の進むべき方向性において有る程度の転換や小回りがきくような考え方が出来るように、
日々鍛錬し続けなくてはいけません。

その上で、技術者は、高い技術を通して何をのこしてゆくのか、
自分の作ったものが社会にどのような影響を及ぼすのかを見極め、
社会に対しての方向性を常に考えていくべきです。
むしろ、何らかの形で社会に貢献するという目的のために技術を習得していくべきだと思います。

ものを作る目、ものを見る目



私は、空間には人間の心を自由に変えられる力があると思っています。

人はものを見るとき時、デザインや構図などがどうなっているだろう…等々、
自分の中に蓄積されたデータを引き出し、絶えず色々なことを気にしながらそのものと向き合っています。
けれども、今まで見たこともないような素材を生かしきって洗練された形やものに出くわした瞬間、
見る人の心が素直なまっさらな気持ちに戻って、純粋な目でそのものと対峙することができ、
けがれのない感動が生まれます。
社会で擦れていない素直な目こそが、普段気付かないような一面を発見し、
本質をとらえることができ、客観的な判断ができるのだと思います。

ですから私はいつも、人の心が素直になるような空間を目指してものづくりをしています。
そのためには、作る側も、素材に対して素直に向き合い、妥協せず、きれいな心でものを作ることが大切です。
そうでなければ人を感動させることはできません。

最も美しいものは、最も少ない線で構成されています。
けれども線の数が少なくなると構成自体が大変難しくなるので、
人はつい、色々なものをつけ加えてごまかしてしまう。
これははっきり言って妥協です。
デザインの究極は
「省くこと」にあると思います。
小さいものでも大きなものでもプロポーションやデザイン、
意匠がその形になった根拠が何処にあるのかを完全に把握し、
これ以上省くところがないとうところまで洗練してはじめて、
あらゆる方向から見ても全く矛盾のない、普遍的なものになります。

そのためには、人を納得させられるだけの確かな技術とセンス、そして、
上質なものしか作らないという強い心と精神が必要です。
上質なものだけに品格が宿り、普遍的なものとなります。
でなければ、本当のものづくりの精神にはたどり着けません。
ものづくりの精神に一歩でも近づけるように、
日々努力を重ね死ぬまで勉強、足踏みせずに常に前進し続けていこうと思っています。

これからのものづくり



さて、少し厳しいことを言いますが、これから先の時代には、
過去の優れたデザインを超える新しいデザインは出てこないだろう、
おそらく出尽くしてしまっているだろうと思います。

インターネットなどで世界中の情報が簡単に手に入り、
様々な難しい仕事をパソコンがやってくれるようになった便利な世の中で、
人は、自らの手や体を使ってしっかりとしたものをつくることが一番不得意になってしまいました。

なぜなら、本来の仕事以外に関わらなくてはいけない時間があまりにも多くなってしまったから。
専門職で有りながら、100年前と同じ職人と比べて圧倒的に仕事に関わる時間が少なくなってしまったため、
技術を磨くこと、ものを作ることに十分な時間をかけられなくなってしまった。
これがかつての優れたデザインや技術を超えられない一番の理由です。

現代人は、例えばかつての優れた時代は超えられないのだという自覚を持って、
今できる最大限のことをもっともっと突き詰めて勉強し、
将来、今が過去になった時に「あの時代にもこういうものができた」というものをのこして行かなければ、
この時代は何もいいものが生まれなかった空白の世紀となってしまうでしょう。

私たちはこれから何をしていけばいいのでしょうか。

幸い、私たちは便利さを駆使して、過去に作られたものを全て見ることができます。
もし「この時代のもの」と呼べるようなものをのこそうと思うなら、よほど覚悟して本質を学び、研究し、
技術を磨きものをつくることにしっかり時間を費やさなければいけません。

リデザインと格好よく謳われるものは、デザインの本質をとらえていない上っ面の産物でしかありません。
能力がないから、過去の優れたデザインをなぞって、小手先でちょっと工夫して変化させただけです。
そもそも、リデザインという概念はあり得ないと思います。
まずはとにかく自分の力で、デザインを根本から考えて向き合って作るべきです。

そういう意味で、今はいいチャンスの時代かもしれません。
今回の大震災、環境、エネルギー、教育、経済、私たちは沢山の大きな問題を抱えました。
本当に大切なこと。
右肩上がりの経済成長だけを追い続け、様々な便利さと引き換えに失ってきた様々な豊かさを自覚し、
生きる上での優先順位を見なおし、大きく方向転換できるチャンスです。

本当の豊かさは便利の延長線上にあるものではありません。
ものづくりの精神が宿るところにこそ本当の豊かさ生まれるのだという確固たる信念で、
妥協しないものづくりを、ともに目指していきましょう!

次回のコラムのテーマは
「人を知る」です。
プランニングはとても自由です。
そこに暮らすひとをよく知ることから始めるようにしています。
そんなプランニングのコツ教えます。

2011年6月1日
耕木杜代表 阿保昭則


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